2005年08月24日

サマー/タイム/トラベラー

サマー/タイム/トラベラー (1) ハヤカワ文庫 JA (745)
新城 カズマ 鶴田 謙二
4150307458

サマー/タイム/トラベラー2
新城 カズマ
4150308039

書店に行くと、SF読まないわりにはハヤカワコーナーに行ってしまう。
というわけでいつものように行って見ると、本著が目に入った。
鶴田謙二のイラストは同コーナーでも良く見かけるが、とみに気合が入ってるように見受けられた。
そして著者名に「新城カズマ」と懐かしい名前。
帯には「時間改変も平行宇宙も無いありきたりの青春小説」と書いてある。
なにやら某自主制作風青春風アニメ風作品を揶揄しているように感じられる。
青春の頃好きだった作家の、某青春アニメを揶揄した帯を巻いた、青春小説。
こういうのは「縁」だと思って買うようにしてるので、買った。

メチャクチャ面白かった。
同著者の名作「蓬莱学園の初恋」のさらに一歩向こう側。
「青春」と頭に付くジャンルのフィクションで一番面白かったかもしれない。
「本読み」「マイノリティー」の物語。
「げんしけん」にも、「あ~る」にも、「NHKにようこそ」にも属せない人の青春。
正に「70年代生まれの非主流派男子」に読んで欲しい小説だ。

本狂いな主人公達の会話に出てくる膨大な実名の署名は、1/3しか私には分からないが、それでも「本を読む」という気分が実に的確に描かれていて胸を打たれる。
(ちなみにRODは「本を所有する」に重きが置かれてるとおもった)
無意味で、だからこそ面白い論争。
変なところから人生訓を見出し、得意になるどころかそれで落ち込んだりする感じ。
肥大した知識と現実の溝に途方にくれる感じ。
特に主人公が、「親が本読みで、物心付いた頃から本がたくさんある」という、全くもって身につまされる設定であり、ちゃんとそれにフィクションで出会ったのは初めてで衝撃を受けた。
そして漠然とした未来への不安。

以下ネタバレ含む。

この作品は、「雲の向こう」が無視し、「イリア」でさえも「宇宙人」という観念に追いやったものを、向き合い描いている。
残念ながら未来を無視したり、期待したり出来るほどに馬鹿でない少年少女たちの不安。
「ここではないどこか」へ行きたいという願望。同時に現状の永遠を望む願望。
もしかして、「世界の謎」を解き明かして希望が見出せるのではというかすかな希望。
同時にそんなわけが無いという達観。

「雲の向こう」は動機不純で腹が立つのかと思っていた。
だがそうではない。「動機」があるのがしっくり来ないのだ。
女の子の目を覚ましたり、ついでに世界の平和を守ったり、北海道がちょっとなくなっちゃったり、そんなことのために「モノ作り」してるわけじゃない。
「夢」とか「希望」とかそんな美化された願望のためじゃない。
作っているという「過程」こそが目的であり、不安と現実と絶望から目をそむけるため、同時になんか分かるんじゃないかという儚い希望のために、モノを作っていた。
それこそが、少なくとも僕にとっては「青春」そのものだったように思う。
だから、「雲」で充足するものが一切無いのだろう。

脱線終わり。
前半で散りばめられたピース。「タイムトラベル」「地域社会」「自転車」「本」「病」「不安」。
若干駆け足ながらも、それらが後半で収束する様は圧巻。
我々の「今」を回想する物語だったのが、劇中の「今」を語り始めるラストが実に面白い。
この作品自体がTTになっているという仕組み。
「政府の援助が入ったとたんアニメが面白くなくなる」という記述に涙。
「それでも未来は来るんだ」というオチが素晴らしい!
劇中の過去と現代のちょうど真ん中の年齢である私には凄く刺さった。
しばらくは、これを租借して生きていけるな。
やっぱり本って素晴らしい。

おまけ
サマー/タイム/トラベラーで言及された作品リスト

Trackback on "サマー/タイム/トラベラー"

このエントリーのトラックバックURL: 

"サマー/タイム/トラベラー"へのトラックバックはまだありません。

Comment on "サマー/タイム/トラベラー"

"サマー/タイム/トラベラー"へのコメントはまだありません。

Post a Comment

コメントする

(HTMLタグは使用できません)
ブラウザに投稿者情報を登録しますか?(Cookieを使用します。次回書き込み時に便利です。)
  •  
  •